小冊子「産廃ってなあに?」の復刻と基礎知識の共有について

小冊子「産廃ってなあに?」について

 約30年前、高度経済成長に廃棄物行政が追い付いていない状況下で、水源地や農地や小学校の近くへの最終処分場の計画や、県内各地への不法投棄等が問題になり、「(旧)産業廃棄物を考える熊本連絡会」(現在解散)が発足しました。
 反対運動は全国で始まり、ネットワークを結び情報共有されました。私たちは、先ずは”産廃”というものは何なのかを学び共有するためにこの冊子を制作しました。約30年が経過し法律も改定され、人々の記憶から廃棄物問題が遠ざかった感もあり、復刻とPDFでの提供を行う事にしました。少しでも役に立てれば幸いです。(以下の画像をクリックして下さい)
※提供に関しましては、当時の主要運営委員へ確認しました。
※内容については、時間経過がありますので、当会の理事で熊本学園大学の中地重晴教授より、以下より、補足解説をしてもらいました。(以下の画像をクリックして下さい)

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 中地重晴(熊本学園大学教授/NPO法人くまもと未来ネット理事)

1981年京都大学工学部卒業。 長年、市民のための環境調査機関である環境監視研究所で、調査研究に従事してきた。2010年4月から、熊本学園大学社会福祉学部に教授として赴任した。専門は環境化学、環境マネジメント論で、化学物質管理とリスクコミュニケーションについて研究している。香川県豊島の産廃不法投棄事件の住民側の代理人、科学顧問として関わっている。化学物質と環境に関する政策対話に市民セクターの代表として参加している。(熊本学園大学研究者総覧:https://gyoseki.kumagaku.ac.jp/kksapp2.aspx?id=197

 

小冊子「産廃ってなあに?」への追補解説

はじめに

 2022年9月、山都町に産業廃棄物最終処分場計画の環境影響評価手続きが始まり、周辺住民から反対の声があがりました。また、五ヶ瀬川の源流部に処分場排水が放流されることから、宮崎県側でも反対の声があがりました。事業者・星山商店(株)は、計画を再検討するということで、配慮書の手続き中断を宣言しましたが、計画を断念するとは明言していません。あらためて、最終処分場計画を提案してくると考えられています。
 くまもと未来ネットでは、反対運動に取り組む方のために、小冊子「産廃ってなあに」を復刻させて、基礎知識を提供することにしました。ただ、小冊子が発行されたのは、1993年です。1997年に廃棄物処理法が大幅に改正され、構造基準と呼ばれる施設基準が厳しくなりました。小冊子から変更された内容について解説し、これから、どんな課題があるのか、説明したいと思います。

1993年から現在まで、廃棄物政策の大転換

 この小冊子が発行されたころは、熊本県下で、産廃の不法投棄や最終処分場の環境汚染が各地で起きていました。1980年代リゾート開発ブームで、ゴルフ場計画が持ち上がり、山間部の土地が買い占められました。バブル経済の崩壊で、ゴルフ場建設が止まったため、今度は買い占められた土地に都会から廃棄物を捨てに来るというのが問題になりました。特に、1980年代後半のバブル経済による好景気、建設ラッシュによって、一般廃棄物、産業廃棄物の両方が、年間10%程度、増加し続け、廃棄物の処理、処分に大きな課題が顕在化しました。
 一つは、一般廃棄物や産業廃棄物の焼却に伴うダイオキシン問題があります。ごみ焼却量の増加に伴い、排ガス中からのダイオキシン類の排出が問題になりました。大阪府豊能郡能勢町の豊能郡美化センターの環境汚染問題や和歌山県橋本市の旧日本工業所の土壌汚染問題などが起きました。
 もう一つは、廃棄物の排出量の増加による最終処分場の環境汚染と、残余容量不足があります。最終処分場の計画に対する反対運動が全国各地に起こり、最終処分場の確保がおぼつかなくなりました。
その当時、国の廃棄物処理に関する審議会に提出された資料から、当時の状況を解説する図を示します。図1は「産廃処理の悪循環」を解説した図です。不法投棄の増大で廃棄物処理に関する住民の不信感が高く、最終処分場の建設が住民の反対でできなくなっている。そのため、図2に示すように、1998年では、このまま最終処分場の新規建設ができなければ、10年後の2008年には、産業廃棄物の最終処分場が満杯になり、埋立て場所がなくなるという予測を厚生省の担当者が立てるほど、処分場の新規建設は困難でした。

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図1 最終処分場をめぐる悪循環

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図2 最終処分場の残余容量と残余年数(2008年当時)

 この二つの問題解決のために、国がどう動いたかというと、普通は規制緩和し、施設をできやすくするのですが、廃棄物行政はその逆で、1997年に廃棄物処理法を改正し、廃棄物の処理施設の構造基準(設置基準)を厳しくし、優良な施設しか建設できないようにしました。そのため、環境汚染の新たな発生が大幅に減少しました。
 熊本県では、住民の不信感を取り除くため、県が公共関与する産業廃棄物管理型最終処分場を建設しました。2016年3月から公益財団法人熊本県環境整備事業団が南関町に「エコアくまもと」を建設し、構造基準を上回る屋根を付けた屋内型の管理型最終処分場として操業しています。
 21世紀に入って、2001年に資源循環型社会形成推進基本法が成立し、廃棄物の処理、処分の考え方が大きく見直されました。廃棄物処理法自体、廃棄物処理の優先順位をつけ、3R(reduce、reuse、recycle)の重要性をうたい、廃棄物の発生抑制と、再資源化することを優先させました。この20年で、産業廃棄物の排出量は約4億トンで、ほぼ横ばいですが、表2に示すように、最終処分量は約5800万トンから、約970万トンに六分の一に、大幅に減少させることに成功しました。 Sanpai Zanryou

表2 産業廃棄物の最終処分量と処分場の残余年数の変化

 最新の環境白書によると、2019年度末で、残余容量は15397万㎥、残余年数は16.8年の余裕があります。熊本県の第5次廃棄物処理計画によると、熊本県内には、2018年度末で、安定型最終処分場は12か所あり、残余容量116万㎥、残余年数は14.6年、管理型最終処分場は、排出事業者の自社処分場が3か所(苓北火力、JNCなど)、産廃業者の処分場が3か所あり、産廃業者の処分場の残余容量は63.7万㎥、残余年数は9.3年です。増設計画中の処分場があり、完成すると大幅に残余年数が増加するようです。
 一方、再資源化を急ぐあまり、最近では、リサイクル品と認定されたフェロシルトや鉄鋼スラグによる環境汚染という問題も起きています。2016年には天草の御所浦島で採石場跡地への鉄鋼スラグの投棄が問題になりました。

zanyo Graff最終処分場の残余容量及び残余年数の推移(産業廃棄物)

1997年3月の廃棄物処理法の改正内容

 改正された廃棄物処理法の内容ですが、まず、ダイオキシン問題に対応するため、廃棄物焼却炉に、ダイオキシン類の排出規制が行われました。焼却炉の規模に応じて、新設炉では、0.1ng-TEQ/N㎥(4トン/時以上)というヨーロッパと同じ濃度で厳しく規制されました。ただ、小型の焼却炉に関しては、1ng-TEQ/N㎥(2トン/時~4トン/時)、5ng-TEQ/N㎥(2トン/時未満)と規制値の排出濃度が甘いという指摘もあります。
 廃棄物最終処分場に関しては、管理型最終処分場の地下水汚染防止のため、遮水シートを二重にすることが義務付けられました。また、最終処分場ごとに維持管理基準、埋立終了後の閉鎖基準などが新しく設けられました。

詳しくは、一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令を見てください。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=352M50000102001
なお、最終処分場の維持管理基準の概要については、以下のURLで取りまとめた表を見ることができます。
https://www.env.go.jp/recycle/kosei_press/h980616a/h980616a-2.html

 さらに、1998年5月に環境影響評価法が制定され、廃棄物処理施設も対象施設になりましたが、最終処分場だと敷地面積25ヘクタール以上という大規模施設しか対象にならないので、1998年6月、国はすべての廃棄物処理施設の設置許可時に、生活環境影響調査を義務付けました。生活環境影響調査は、簡略化した環境アセスメントです。
 なお、熊本県は熊本県環境影響評価条例で、すべての最終処分場に国の環境影響評価法に準じて、環境アセスメントを行うように義務付けています。
 2007年に水俣市の山間部に大規模な産業廃棄物の最終処分場計画が持ち上がりましたが、市民の反対の声も大きかったですが、熊本県、水俣市の環境影響評価に関する意見が出され、業者が対応できなくなり、計画を断念しました。

最終処分場の種類と構造

廃棄物の最終処分場は大きく分けて、遮断型、管理型、安定型の三つに分類され、構造基準と呼ばれる設置基準が決められています。それぞれの図を参照してください。

① 安定型最終処分場

 産業廃棄物の中でも、安定五品目と呼ばれる、ゴムくず、金属くず、ガラス及び陶磁器くず、廃プラスチック、コンクリート及び建設廃材(以下 がれき類)の5種類のみを埋め立てることができる最終処分場です。安定五品目は雨風にさらされても有害物が溶け出さないということで、谷間や平地に素掘りの状態で埋め立てることができるとされています。
 国内には952か所(令和2(2020)年4月1日現在)設置されています。熊本県には、12か所あります。うち、5か所は熊本市内にあります。ほとんどが産業廃棄物の埋め立て用ですが、廃棄物処理法が未整備だったころは、一般廃棄物の埋め立てにも使われていました。そのため、後に有機物を含んだ廃棄物が埋め立てらていたことが明るみに出ると、不適正処理の問題が指摘がされました。また、過去には、産業廃棄物安定型最終処分場で安定五品目以外の廃棄物と混入して埋め立てる不適正処理や、不法投棄による環境汚染が全国各地で問題になりました。
 たとえば、自動車や家電製品中から鉄くずを抜き取った後の破砕物をシュレッダーダストと呼ぶが、ガラスくず、金属くず、プラスチックくずということで、安定型最終処分場に埋め立てられていましたが、国による調査で有機物が溶出し、環境汚染が懸念されたので、管理型に埋め立てるよう構造基準が厳しくなった例があります。
 さらに、現在では、シュレッダーダストの処理に関しては、自動車リサイクル法の施行に伴い、新車購入時に廃車費用を前払いし、シュレッダーダストに関しては、リサイクルが義務付けられています。

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② 管理型最終処分場

 一般廃棄物とその焼却灰及び有害物を含まない産業廃棄物中の汚泥や燃えがらなどを埋め立てることができます。雨や地下水が浸入すると有害物の混じった水が発生するので埋立地の底部と側面に遮水シートを敷いて、雨水が地下に浸透したり、外部へ流出しない構造になっています。
 遮水シートの底部に埋設された集水管で集められた浸出水は有機物や有害物を含んでいる可能性があるので、排出基準以下まで排水処理して、河川などに放流することが義務付けられています。1990年代前半、東京都日の出町谷戸沢処分場で遮水シートが破損し、地下水汚染を引き起こしていることが社会問題になり、遮水シートを二重にするなど構造基準が厳しくなりました。
 国内には一般廃棄物管理型最終処分場が1147か所(令和3(2021)年3月31日現在)、産業廃棄物管理型最終処分場が628か所(令和2(2020)年4月1日現在)設置されています。熊本県には6か所(内、1か所は熊本市内)の産業廃棄物管理型最終処分場があります。うち、3か所は排出事業者の自社処分場です。

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③ 遮断型最終処分場

 特別管理一般廃棄物と呼ばれる清掃工場のばいじんや特定有害産業廃棄物と呼ばれる重金属などの有害物を含んだ燃えがらやばいじんなどを埋め立てることができます。プールのようなコンクリート槽の中に埋め立て、外部から雨水が入らないように屋根を付け、雨水や地下水から遮るという意味で遮断型と呼ばれています。
 操業している遮断型最終処分場は国内には23か所(令和2(2020)年4月1日現在)のみです。熊本県内には、1か所あります。

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