熊本でも進むバイオマス発電とその問題点

私たちくまもと未来ネットでは、前身の環境ネットワークくまもと時代から、「地域のエネルギーは地域へ還元する」を理念に、自然エネルギー創造事業を展開して来ました。太陽光による市民共同発電所(市民が資金を出し合って設置する)の設置(8基)を行ってきましたが、これらは自然を破壊しない小規模(低圧、出力50kW以下)の施設で、設置者への還元を基本として、再生可能エネルギーの普及を目指してきました。

工場や事業所からの産業廃棄物はすでに、廃棄後のトレーサビリティ(経路証明と記録)が義務付けられています。また、有明産アサリの偽装問題も、「産地証明書」とトレーサビリティが有効な対策として検討されています。今後、エネルギー(電気)も、何を原料としてどこでどの様に生産されたのか、SDGsを意識し、認証を確認して購入する時代ではないかと考えます。

様々な大規模な再生可能エネルギー開発が、熊本の地でも行われています。山間部を造成して建設する大規模な太陽光発電所は、自然環境への影響や山崩れ等の豪雨災害要因として各地で問題となっており、同様に山間部での大規模な風力発電(水俣地区など)も問題が指摘されています。これらの外部資本による大規模開発は、元々地元にある太陽や風のエネルギーを収益事業のために地域外の事業者が利用するものです。

これらの大規模な施設は建設時の政府の資金援助と、FIT(固定価格買取制度:発電された電気を一定期間高値固定で買い取る)により設備投資計画を立てています。FIT期間は20年間ですが、その買取り期間終了後、電力市場による売電となれば、事業計画が途中で破綻するリスクを含んでいます。

この様な状況の中、八代港に国内最大級の木質バイオマス発電施設が建設されることが発表されました。

 ▼八代港に国内最大級(75,000kW)の木質バイオマス発電施設を建設すると発表。
  https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42715490Q9A320C1LX0000/

 ▼熊本県の事業の審査経過
  https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/51/51613.html

※基本情報をまとめています→「yatsushiro_biomass power generation.pdf

 

■注意が必要な新エネルギー源:バイオマス発電
 ひとくちにバイオマス発電と言っても様々な技術があり、火力発電の燃料に様々な種類があるのと同じように、バイオマス発電も燃料は様々です。大分類としては、ひとつは木材など固形物を燃やすタイプ、他方が家畜の糞尿や下水処理の汚泥などから発生したメタンガスなどを燃やすものです。バイオマス発電の中でも、輸入した「原料」を燃やす場合や木質チップの供給状況については、本当にカーボンニュートラルなのか、持続可能なのか、検証が必要です。

上記の事業計画仕様には、燃料種別に「木質ペレット」「PKS」「木質チップ(熊本県産の未利用間伐材等)」との記載があります。「木質ペレット」「PKS」「木質チップ」は、以下の通りに、それぞれに問題を含んでいます。
この国内最大級の施設の稼働を賄うには、大量の輸入「木質ペレット」「PKS」が必要であり、それらが入手困難な場合は、国内森林資源に「持続可能ではない」調達負荷がかかる事になります。

それぞれの問題点の詳細を以下に記載(リンク)します。

 ①パーム核殻(PKS:Palm Kernel Shell)の問題
 ②木質ペレットの問題
 ③球磨川周辺、九州山地からの森林資源の問題

 

①パーム核殻(PKS:Palm Kernel Shell)の問題
 「貿易統計」によると、バイオマス発電の「燃料」として使われる「パーム核殻(PKS)」の輸入額は2010年44億円だったものが2017年には85.3億円へと2倍以上に拡大しています。「パーム核殻(PKS)」の主な用途はバイオマス発電の燃料であり、日本各地でバイオマス発電が増加するのにあわせて輸入量も増加を続けています。

yashigara1

国別のパーム核殻(PKS)輸入量 (出典)財務省貿易統計

主に東南アジアで生産されるパーム(アブラヤシ)から得られる油は、果肉からとる「パーム油」と、種の核からとる「パーム核油」の2種があり、組成も利用方法も異なります。「パーム核殻(PKS)」はパーム核油を採った後の、種の殻(クルミの殻の様なイメージ)です。これらの油は「植物油脂」として加工食品や、洗剤や化粧品など工業製品にも使われる便利な素材であり、日本では8割以上が食用として使われ、日本人は年間4Kgを摂取していると言われています。

パーム(アブラヤシ)の産地の東南アジアでは、プランテーション拡大のために熱帯雨林の急速な伐採(20年で九州に匹敵する面積)が行われ、様々な環境問題を引き起こしています。

・プランテーション拡大のために行われる野焼きはその地域の生態系を破壊し、希少な野生動物が生息地を追われている。

・開墾されたパーム(アブラヤシ)農園などで発生する森林火災は、主要生産国であるマレーシアやインドネシア、その隣国であるシンガポールで深刻な煙害を引き起こしている。

・先住民が生活の場を追われ、強制労働や児童労働といった人権問題を生じるなどの被害も発生している。

パーム(アブラヤシ)は成長段階で大気中からCO2を吸収するという理由から、「パーム核殻(PKS)」を使ったバイオマス発電は「CO2を発生しない」(カーボンニュートラル)とされていますが、これらの生産段階まで遡って見ると、必ずしも環境配慮型のクリーンな電源とは言えない状況です。 ※SDGs(持続可能な状況)ではありません。

また、「パーム核殻(PKS)」を日本まで輸送する際に、運搬という環境負荷が発生します。「パーム核殻(PKS)」は石炭や天然ガスなどの化石燃料と比べて、重量あたりの熱量が低いため、同じ熱量を得るには、より大量に、産地であるインドネシア・マレーシアから化石燃料を使って船で輸送する事になります。

 

②木質ペレットの問題
 バイオマス発電に「木質ペレット」(主な生産国は、カナダ、ベトナム等)を使う事も同様な問題を抱えています。
「木質ペレット」は森林を伐採した後、動力(エネルギー)を使って粉砕加工し、その後、乾燥させる必要があるため、乾燥工程にも熱(エネルギー)が投入されます。また、日本まで輸送する際に、長距離の運搬という環境負荷が発生します。「木質ペレット」も石炭や天然ガスなどの化石燃料と比べて、重量あたりの熱量が低いため、同じ熱量を得るには、産地であるカナダ・ベトナムから化石燃料を使って船で、大量に輸送する事になります。

pellet1

国別の木質ペレット輸入量 (出典)財務省貿易統計

森林が再生するには長い年月と、成長に適した環境の維持が不可欠であり、燃料として用いられるものは持続可能な量に制限すべきです。でなければ木材に蓄えられたCO2の過剰排出となってしまい、本来の目的とは真逆に環境負荷を掛けることになります。SDGsとしても、離れた見えない場所で環境や人権や野生生物などへ影響を及ぼしたものを原料としたエネルギーを購入する事は避けるべきです。

「木質ペレット」も、成長段階で大気中からCO2を吸収するという理由から、「木質ペレット」を使ったバイオマス発電は「CO2を発生しない」(カーボンニュートラル)とされています。しかしながら、原料の生産や運搬段階まで遡って見ると、必ずしも環境配慮型のクリーンな電源とは言えない状況です。 ※SDGs(持続可能な状況)ではありません。

 ▼バイオマス発電の森林減少・生態系破壊リスク防止を求め、日韓環境NGOらが共同声明
  https://rief-jp.org/ct12/119435

 ▼大規模バイオマス発電の問題点
  https://www.foejapan.org/forest/biofuel/pdf/210124_Mitsuta.pdf

 

③球磨川周辺、九州山地からの森林資源の問題
 木材需要が急増した、戦後復興期。価格は高騰し、林業は花形産業と、もてはやされました。しかし、1960年代に木材の輸入が自由化されると安い外国産の木材に押され、国産材の価格は急落。林業の衰退が進みました。球磨川周辺の九州山地も同様です。(同時に、外国産の安い木材は、東南アジアを主とする諸外国から原生林を伐採し、持続性のない開発行為が行われていました)

2009年、国は戦後に植林された木が成熟したとして、政策を大きく転換しました。
2009年「森林・林業再生プラン」→木材自給率50%を目指す、としたのです。(周辺法も多く制定)

そして林業の生産性を上げるため、補助金の制度を整えました。例えば作業道の整備では、幅2.5メートルの道を1メートル整備するごとに、およそ2,000円。大型の林業機械の購入については、1,000万円以上補助するケースもありました。こうした国の後押しで日本の木材自給率は、この20年で倍の4割近くまで成長して来ました。

国のこの政策を背景に、数多くの木を一度に伐採する「皆伐(主伐)」(生産性を上げるため、一定の範囲にある木をすべて伐採する)が、日本各地の山々で広がっています。本来、価値の高い十分に成長した木を選択して伐採し出荷(間伐)をしていました。「皆伐」が広がった背景には、これまで切ったあと捨てていた質の低い木材(C材:キズや曲がりのある材)も国が普及を進める『バイオマスの燃料』などとして売れるようになったことがあります。

元々、日本の森林(山)は、複雑に入り組んで急峻な地形が多く、大型機器による「皆伐」に合わないのですが、これらの理由により、大型の機械を国の助成で購入し、「皆伐」するというスタイルが増えました。大型の機械は元々その様な大規模な皆伐目的に合う機械であり、大型の機器に合わせた大規模な林道(4m規模)を無理に作っていく(切り土・盛り土)ため、豪雨時にその林道を起点として崩落が起こる事例が多々報告されています。(2020年7月の球磨川水系豪雨災害においても、山の上部の「集水域」での皆伐や開発が災害を大きくしたという報告があり、調査が行われています)

前述の様に、八代の大規模なバイオマス発電所で燃やされる燃料は「木質ペレット」「PKS」「木質チップ(熊本県産の未利用間伐材等)」との記載があります。この国内最大級の施設の稼働を賄うには、大量の輸入「木質ペレット」「PKS」が必要であり、それらは海外に依存し、市場調達を行うため、海外の世情に大きく影響を受けます。入手困難な場合は、球磨川周辺の森林資源に「持続可能ではない」調達負荷がかかる事になります。それが、地域に災害をもたらし、持続可能性を壊していく事は避けなければなりません。
「森林の公益的機能」や「豊かな生態系」を維持しながら持続的な林業経営を行う事が、持続可能(SDGs)な地域(未来)を造ります。

 ▼第116回フォーラム「球磨川流域の土砂災害で見えてきたこと」in 熊本県人吉市(動画)
  

 ▼クローズアップ現代 宝の山をどう生かす 森林大国・日本飛躍のカギは
  https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4583/

 ▼土砂崩れの9割は林業が原因 政府が誘発する皆伐を推奨
  https://dot.asahi.com/wa/2021070600048.html?page=1

 ▼無謀な森林伐採が「土砂災害」を招いている事実
  https://toyokeizai.net/articles/-/458023